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ブックレビュー

象の消滅

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作家:村上春樹

いまや村上春樹は世界的な作家だ。香港や台湾、韓国などでは1990年代から翻訳され高い人気を得てきた。そして現在は30以上の言語に翻訳・出版されている。なかでも、このところの中国、ロシアでのブームは過熱気味。はたしてハルキストは、世界のどこまで増殖するのだろう。

www.amazon.co.jp村上作品の主人公(たいがい「僕」)は、主流ではない人間、どこか喪失感を抱いた人間だ。なんらかの形で世の中と折り合い、あるいは居場所を見つけようといている。主人公・僕は、決してタフではない。偏屈だったり、自分自身に不満だらけだったり。けれど、繊細で曖昧でも、そこに自分という確固たる個が感じられるのだ。

どんどんと膨らんでいったバブル経済と、あっという間の崩壊。日本で村上春樹という作家の人気に拍車がかかるのは、そんなさなかだった。いま、世界が速く激しく揺らぎ、混沌とした価値観が渦巻いている。だからこそ、各国の若者が抱える不安や孤独を村上作品は代弁しているのかもしれない。

「象の消滅」は村上春樹の初期短編17作品を収録。日本ではさまざま出版社から出ていた作品たちだが、アメリカで「THE ELEPHANT VANISHES」として1993年に刊行。英語圏では短編集ながらロング・セラーを記録しているという。その日本語版ということで、装丁もペーパーバック風。中味も面白い試みがほどこされている。

それは、冒頭の本人の解説ページにも書かれている。1985年刊短編集『回転木馬のデッド・ヒート』にある「レーダーホーゼン」という作品は、アメリカの雑誌で掲載されるときアメリカの読者用にコンパクトにまとめられてしまった。ところが、作者自身も「なかなか悪くない出来」と認めるものだったために、これを元に村上氏がもう一度日本語に翻訳しなおしたという。

当時の作品との違いを読み比べてみる。日本語版と英語版を読み比べてみる。当時の思い出に耽りながら読む。始めてだけど面白そうだから読んでみる…。テンポのよい短編ぞろいなので、ハルキストならずとも、さまざまな読み方で楽しめる一冊だ。

著者:瀧口千恵

「象の消滅」村上春樹著
新潮社刊/1300円(税別)

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